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山へ。

「これからヒノキを一本伐ります。」

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炭やきと山仕事(木こり・木挽き)を
生業としている杉野さんが静かに、
力強く、子どもたちに語りかけます。
「今から木を伐ります。」
「頭の上に木が倒れてきたら 逃げないと命を落とします。」
「よそ見をしないで、 自分の身は自分で守ること。」

緊張した子どもたちに、 淡々とした口調で、 木を伐る際の危険性、 自身の命の守り方について 念入りに説明します。
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その真剣な眼差し、語気の強さは、 伝える相手が子どもたちであっても 少しも和らぐことはなく
これから木を一本伐るということが どういうことなのかを 包み隠さず伝えてくれます。
伐採の流れとしては、 まず、木こりの杉野さんが倒したい方向に ”受口”と呼ばれる切り込みを入れ、 続いて反対側から”追口”と いう切れ込みを入れます。
その後、杉野さんの合図に合わせて、 安全な位置に設置されたロープを 子どもたちが綱引きの様に一斉にひっぱり、 木が倒れる、という仕組み。
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全身オレンジ色の作業服を 身につけた杉野さん。
腰に付けた熊鈴が心地よい音を響かせ、 てきぱきと準備を進めながら 木が一本なくなることでこの場所が どのくらい明るくなるのか、 伐る前にこの”暗さ”を覚えておいてほしい、 と写真撮影を促します。
立ち会いに来ていた 山主の安藤さんのご挨拶があり、 粛々と山の神様にお供えをしたら、 いよいよヒノキの伐採です。
静かな森に、 突然チェーンソーの爆音が響渡ります。
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その音の大きさに驚いて 一旦遠くへ逃げだす子どもたちですが すぐに戻って小さな手で ロープをしっかり掴み直します。
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そして、そんな 子どもたちの様子を見守りつつも
受口を作る際の、 辺りにフワッと漂う木の香りに 心ときめかせ、 文字通り森林浴にふける保護者の方々。

ギュイーンというチェーンソーの音
続いてカンカンという斧の音
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そして杉野さんの号令。
「ひっぱって!」
誰ともなく始まった「そーれ!」の掛け声。
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がんばれがんばれ、とエールを受けて 力いっぱいロープを引っ張る子どもたち。
最初は先の方がぐらぐらと揺れるくらい。
次第に斜めに傾いてきたかな、 と思った直後。
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周りの木の枝をバキバキと へし折りながらあっという間に ドシーンという大きな音を立てて、 大きなヒノキが倒れます。
拍手が起こり、 子どもたちの大歓声。
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倒れたばかりの木に 子どもたちが次々とまたがり、 手で触ったり引っ張ったり 叩いてみたり。
木が立っていた場所を再び指差し、 見てもらいたいのは 倒れた木のあった空間なんです、と杉野さん。
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「光が差し込み、明るい!」と 子どもたち。
計算通りに2本の木の間に 倒れたヒノキを囲んで
無事作業を終え、 いくぶん表情を和らげた 杉野さんが解説してくれます。
倒した木は「葉枯らし」と言って 葉を付けたまま、
その場所に置いておくそうです。
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普通、林業の現場では、
すぐに枝葉を落として
売り物になる長さに伐り、
搬出、運搬するそうですが、
それを行わず、
伐った木は、
その木が育った森の中で
「葉枯らし」を行う。


木は葉っぱがついたままなので、
光合成を続けるが、
根は切り離されているので水は吸えず、
木の本来の生体能力を利用することで
木が穏やかに乾いていく。


葉っぱが光合成を止める
数ヶ月から半年、
このまま置くことで脂分が残り、
乾いているけどしっとりとした
木材として良い状態になるそうです。


加えて、太陽の光が弱まり
光合成が穏やかな秋・冬・春の季節、
その中でも6~7回訪れる新月期と
呼ばれる期間に伐採することで、
根から吸い上げる水の量が少ない
木を選ぶことができる。


満月の頃はバイオカーブの上昇がピークで
植物の澱粉が増え虫がつきやすくなり
新月の頃は下降のピークで澱粉が減り、
虫が寄りにくくなる。


葉枯らし+天然乾燥された
新月期伐採の木材は、
色が良く、香りも素晴らしく、
また、腐りにくく燃えにくい。


歪みや狂いも少ないそうです。

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今日は時間ないかも、と
お預けされていた目の前に並ぶ
アスレチック遊具も、
20分だけ時間を作っていただきました。

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先生の合図で、子どもたちは
思い思いの遊具に飛び付きます。

子どもたちが元気よく遊びまわる間、
倒したばかりのヒノキの根元に近い部分から
大きな輪切りを作り子どもたちにプレゼント。

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水分をたっぷり含んだ輪切りを
太陽に透かしてみると
オレンジ色に透ける部分と
くっきり分かれて見えて、
また驚きの声が広がります。


輪切りを作る際に出た木屑も
ヒノキの香りがいっぱい。


保護者の手で丁寧にすくって後で
みんなで分けて持ち帰りました。


「杉野さんはね、木を一本切ったら
全部使えるように工夫しているんだよ」
という先生の言葉を思い出します。


ひとしきり身体を動かした後、
再び車で移動。


設楽町にある
”段戸裏谷原生林 きららの森”に
向かいます。

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標高1000メートル、
樹齢200年300年を超える巨木の
そびえ立つ天然林。

本来なら靴の汚れを落としてから
入るべき、大切な森です。


入り口で一人ずつ
登山者カウンターを回し、
杉野さんを先頭に長い列を組んで、
そびえ立つ木々の中を進んでいきます。


入り口付近にある公園広場で
敷物を広げ、まずは腹ごしらえ。


見渡す限りあちこちに雪が残り、
予想以上の寒さの中、皆で肩を寄せ合って
お弁当を食べました。


もうすぐ雪が降ってくるかもしれない。

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子どもの足と、
夏タイヤの車での帰路を考慮して
今日はショートコースにしましょう、と杉野さん。


お腹もいっぱいになり、
再び列を組んで進む一行。

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途中、特徴的な形をしたブナの木に注目したり、
倒れている巨木の前で立ち止まったり、
実際に樹木に触れながら、
森の微生物についてのお話がありました。

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「(倒れている木を指して)このくらいの範囲で
地球上の人より多い数の微生物が
生息しています。」


「倒れた木が微生物を育み、葉を虫が食べ、
栄養を作り栄養のある森は
綺麗で美味しい水を作る。」


「倒れた木の周りに落ちた
木の子どもがまた大きな木になり、
影を作り、命を育み、倒れ、また光が差し込む。
ここだけで食物連鎖が完結しているのです。」


倒れた樹木に皆、手のひらを乗せます。


「この柔らかさを覚えておいてください。
微生物がだんだん柔らかくした樹木の感覚を。
柔らかくなった地面の感覚を。
これが微生物の作りだした環境なのです。」


小一時間ほど森の中を歩き、
元の入り口に戻ってきました。


この頃には子どもたちも緊張が解け、
すっかり人気者となった杉野さんの周りに
押し合いへし合い。


最後に杉野さんの作業場も
案内してもらました。

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杉野さんは木こりですが、
炭やき職人でもあります。

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ちょうど窯に残った炭を見せていただき、
加工途中の木材や
使用する機材などの説明、
お仕事のこだわりなども教えていただき、
実際に木を加工する様子も
実演してもらいました。


木こりのお仕事は、
一本の木をきちんと使うということ。


伐採する木や、その木が育った森に、
その森を支える数多の命が
そこに在ることへの敬意と感謝、
その真摯な姿、
シンプルな思想に
終始胸が熱くなる思いでした。


この日伐採したヒノキを使って、
これから家作りに挑戦する
学園の子どもたちの中に、
杉野さんの熱い想いと
自然の温もりがそっと根付いた、
忘れられない1日となりました。

(2年生保護者)
・・今後の開催イベント・・ ・5/7(土) 見学会ご予約不要 
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